進化する岐阜の農村集落イトシロ


Booz&Companyチームの3人で岐阜県郡上市の石徹白(いとしろ)に足を運ぶと、夏の日差しを浴びて緑が美しく映えるトウモロコシ畑の景観が目に飛び込んできた。農村の風情に赴深さを添えるヒグラシの協奏曲も耳に心地よい。岐阜市内から走らせてきた車で峠を上って集落に辿り着いた僕たちは、ここ石徹白で活躍する平野彰秀さん&馨生里さんを訪ねて地域の近況を伺った。Boozチームが石徹白のみなさんとのご縁を頂いた経緯は過去の記事にまとめている通りだが、2009年にファーム内で立ち上げたプロボノ第一弾の山村地域再生プロジェクトで3ヶ月にわたる地域づくり支援をさせて頂いたことによる。その最大のきっかけを生み出して頂いた平野さんに石徹白の最新動向を伺い、深夜まで続くエキサイティングな談話とともに民宿の居間がスーパードライの空き缶で埋め尽くされていった。

エクストリーム談義もさることながら、僕たちが最も楽しみにしていたことの一つが石徹白の農村カフェレストラン「くくりひめカフェ」。1年半前のスタートアップにご一緒させて頂いて以来、カフェを運営する石徹白の女性チームのみなさんが次々と生み出す創意工夫に感銘を受け続けている僕たちは、自分たちにできる形で応援したいとの想いで今に至っている。滞在2日目、昼にカフェへと足を運ぶと目に入ってきたのがニューアイテム。“くくりひめカフェ”と綴られた可愛らしいノボリが立っているではないか。ランチも石徹白の食材をバランス良く取り入れる形でバージョンアップしており、明らかに洗練されている。今、大ブレイクしているのがアマゴの一夜干し。旨い。一品ずつにストーリーがあり、くくりひめのみなさんから直々にメニュー紹介を頂くと、いっそう美味しく感じられる。トマトとチーズを組み合わせたデザートにも思わず舌を巻いた。


ランチも落ち着いた頃、くくりひめのみなさんから近況を伺うと、メンバーも増えて益々パワーアップしている様子。勿論、運営していく上で直面する課題もあるものの、みなさんの創意工夫で前進している様子が強く伝わってきた。集落のみなさんにも支えられ、少しずつ売上も好調へ。カフェの売上で得た収益から、厨房には特大冷蔵庫とオーブンレンジが新調されていた。同時に、手作りの棚が設置されていたことが見逃せない。くくりひめスタッフの手で網棚を作ろうと試行錯誤していたときに、石徹白小学校の校長先生が技術の先生であったことが発覚し、見事に棚を作り上げてくれたとのこと。自分たちで持ち寄れるものは持ち寄ってカフェを作る。「みんなで、楽しく、できることから始める」が基本指針なのである。そのような小さな積み重ねが集落に伝わり、お客さんに伝わり、次々と地域ファンを生み出すサイクルに繋がっている。

さらに、くくりひめカフェとシナジー効果を生み出している石徹白ツーリズムの果たす役割も極めて大きい。いとしろ青空学校という体験プログラムが定期的に開催されており、プログラムに合わせてカフェにランチのオーダーが入る。石徹白を訪れた方々は地域の旬の食材を取り入れたランチを堪能するとともに、くくりひめのみなさんとの対話を通じて地域への理解が深められるのである。加えて、今、全国的に石徹白への注目を集めつつあるのが集落内に設置された小水力発電。白山の麓という立地から水の豊富な地域特性を活かした自然エネルギーの導入が平野さんを中心に進められており、震災後のエネルギーのあり方への関心の高まりも相まって各地から視察が相次いでいるという。この視察の際にもくくりひめカフェのランチが用意され、地域を感じて頂く機会となっているのである。


この週末は青空学校の薬草体験&白山中居神社の創業祭が重なり、僕たちも現場の今を改めて体感することができた。また、小水力発電も案内頂いて、地域における自立的なエネルギー供給について考察することができたことも意義深い。そして、何より嬉しかったニュースは、諸々の取組による地域の魅力発信を通じて、石徹白へ2世帯の移住が決定したという事実。1年半前にチームメンバー全員で定住人口の増加を実現するメカニズムを徹底的に分析した上で実践的な地域再生ロードマップを作り上げたのだが、策定したイメージに限りなく近い状況が現実のものとなってきている。僕たちとしては、「石徹白のみなさんを引き続き応援させて頂くとともに、日本全国で地域再生を模索する方々へのノウハウ共有にも発展させたい」と、サユールイトシロの稲倉さんに頂いた逸品のズッキーニを携えながら帰路についた。

いとしろき こともなき世を いとしろく @平野さん邸