南鑼鼓巷のカフェ街づくり


北京中心部の什刹海から足を延ばして南鑼鼓巷(なんらここう|nanluogu xiang)へ。ここは民家を改装して造られた味わい深いレトロなカフェが軒を連ねる胡同(フートン:路地)である。カフェ愛好家には朝から晩まで居ても飽き足りない。民家に息づく旧き中国の文化と西洋のカフェ文化が見事に調和している。もし日本に南鑼鼓巷的ストリートがあったら日替わりで自分のモバイルオフィスにするに違いないと思いつつ、幾つものカフェを徘徊しながら各店舗の回転率を著しく低下させる客を一人演じていた。

街づくりの観点から興味深いのは、胡同として700年の歴史をもつ南鑼鼓巷が近年になってブレイクした経緯である。少し紐解いてみると、1999年にここ南鑼鼓巷で生まれた1軒のカフェがトリガーとなっている。カメラマンで旅好きのオーナーが中国国内の自転車旅行で撮りためた写真を展示するためにカフェ「過客」をオープン。海外からのバックパッカーが集まり、感度の高い北京の若年層が出入りし始め、周辺に安宿やカフェ・バーが次々と出現。この連鎖が加速して今の形となった。一人の遊び心からスタートした街づくりというのも粋である。

また、開発ラッシュが続く中国において、民家を改装するという手法を採った南鑼鼓巷は、北京に住む人々に対しても「自分たちの守るべき伝統文化は何か」を考えるきっかけを作ったとも言われる。これを聞いて、地区の特徴(コンテクスト)と個性(アイデンティティ)という景観の構成要素について思いを馳せた。ここでは、建物というコンテクストにおいて歴史的な民家で統一された街並みが、南鑼鼓巷というアイデンティティを形成している。街づくりにおいて、地域内の同一性は地域外から見ると個性になるのである。